研究トピックス

スピン分極した表面2次元電子系の量子干渉

Ag(111)表面上にBi原子が√3超周期で配列したBi/Ag(111)√3x√3表面では、強いスピンー軌道相互作用のために表面に局在した表面2次元系の電子バンドの縮退が解けて、スピン分極が発生します。 スピン分極した2次元電子系は、電子の後方散乱において入射電子と散乱電子のスピン偏極の方向が異なる場合には散乱が禁止されてしまうため、スピントロニクスなどの応用の面からも注目されています。 我々は走査トンネル顕微鏡(STM)を用いて、この表面の2次元電子系の後方散乱に伴う準粒子干渉パターンのエネルギー依存性(Figt.1)の観測に初めて成功し、その表面バンド分散関係(Fig.2)や、2次元電子バンドのスピン分裂に伴う電子状態密度の発散(Fig.3)を明らかにしました。
Fig. 1 Bi/Ag(111)√3x√3表面電子の準粒子干渉パターン

Fig. 2 表面電子状態のバンド分散

Fig. 3 表面電子の局所電子状態密度
(H. Hirayama, Y. Aoki, C. Kato,Phy. Rev. Lett. 107, 027204 (2011). )

表面2次元電子系の不純物散乱に伴うキャリアダイナミクス

2次元電子系の不純物散乱は、アンダーソン局在などの基礎過程として重要です。 我々はAg(111)表面(Fig.1(a))上に微量の不純物原子を吸着(Fig.1 (e), (f))させると、Ag(111)と表面に局在した2次元電子系の準粒子干渉パターン(Fig.1(b)-(d))における周期性が段々失われていく(Fig.1(f)-(h),(j)-(l))ことを発見しました。 これは不純物原子による散乱で表面2次元系の電子寿命が短くなり、局在化し始めた為と考えられます。 我々はこの系について、Fermi流体理論に従った表面2次元電子系のlife timeの エネルギー依存性、電子ー格子相互作用に伴うlife timeの温度依存性、不純物散乱に伴うlife timeを実験データをもとに解析(Fig.2 (a),(b))し、2次元電子系のグリーン関数の虚部(Fig.2 (b))を数値的に評価することで、実際に上に述べたシナリオに基づいて、表面の不純物原子濃度の増加と共に、表面2次元バンド分散がそのボトム部分から自由電子的な分散関係から次第に外れていく原因を解明しました。
Fig.1  不純物濃度の増加に伴う表面構造(左列)と准粒子干渉パターン(右3列)の変化

Fig.2  不純物濃度増加に伴う表面2次元バンド端のlife time broadening (a), 数値的に解析したΣ(グ リーン関数の虚部)の結果(b)。

(H. Fukumoto, Y. Aoki, H. Hirayama, Phy. Rev. B86, 165311 (2012).)
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